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吉田 鋼市

​第24回 吉田村ヴィレッジ

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 栃木県下野市の東のはずれに位置する「ほんとの田舎」のもとの農協の施設だったところがリノベーションされ、「吉田村ヴィレッジ」(YOSHIDA MURA Village)と名付けられ、たいへん都会的なマーケット・ベイカリー・レストラン・ホテルとなっている。「ほんとの田舎」というのは、このヴィレッジのパンフレットに書かれている言葉で、そこには「何もない田舎で過ごす豊かな休日」とのキャッチフレーズもある。「吉田村」というのはかつて栃木県河内郡にあった村名で、後に下野市の一部となって、いまは「本吉田」「上吉田」「下吉田」などの地名として存在している。

 「吉田村ヴィレッジ」としてのオープンは2021年であるが、1989年までは宇都宮農協(JAうつのみや)の吉田支所の事務所やマーケットやガソリンスタンドや倉庫などがあった。それらの施設は農協支所の移転後は使われていなかったようだが、2014年ころから事業やイベントの場となってきていた。それを推進してきたのが、かつてデザイナーでいまは実業家で「吉田村ヴィレッジ」村長でもある伊敦彦氏である。もともとは家業のいちご園を継ぎ、ジェラート(アイスクリーム)店を営むために帰郷されたようだが、この農協の施設を購入し、まず2014年に向かい側の1970年頃創建とされる農協の鉄筋コンクリート造の事務所をイタリアンレストランとし、同時に隣接する広場で「吉田村まつり」なるイベントを毎年秋に開催し、そしてようやく2021年にヴィレッジ開村となったわけである。

 開村の目玉が、米や農産物を保管するための大谷石積みの壁体をもつ2階建ての木造倉庫のリノベーションである。そういえば大谷石の産地は栃木県宇都宮近郊であった。石積みの倉庫は2棟あり、そのうち大きいほうが、先述のマーケット・ベイカリー・レストラン・ホテルとなり、それと並んで立つ奥の少し小さめの倉庫が事務用に使われているようである。実はもう1つ、石積みの倉庫がかつての農協事務所の奥にあるが、これもいまはイタリアンレストランのオフィス用に使われているようである。大きい倉庫の創建年は1941年とされ、他の2棟はそれよりも20年ほど後のものらしい。敷地の最も奥にある鉄骨の倉庫は、さらに20年ほど後のものという。これらの倉庫の設計・施工は不詳。そして、倉庫のリノベーションの設計は、栃木県小山市のアトリエ慶野正司一級建築士事務所で、施工は地元下野市の小林工業である。

 さて、その石積みの倉庫の補強改装ぶりであるが、木造の構造にかなりの量の鉄骨とブレースを組み込む形で行われており安心感がある。特殊な改修の方法が取られているわけではないが、間仕切りすることなく内部が連続的に変わるやり方がとられており、自然な感じがする。新たに設けられた階段もシンプル。ちょっとびっくりしたのが2室だけ設けられたホテルで、これは少し意外なところに現れる。倉庫の壁面に付けられた飾りも、農機具とか鞍とか、あるいは収穫物とかで農業と関係がありそうなものばかり。敷地の奥の鉄骨の倉庫もまだ手がつけられないままであり、このヴィレッジの空間はさらに変化していくものと思われる。そして「ほんとの田舎」が大変身することもあり得ないわけではないと思わせる。

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入り口部分。右に2棟の石積みの倉庫。正面奥に吹き放ちの鉄骨の倉庫。

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石積みの倉庫の出入り口部分。扉は新設されている。

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奥の小さい方の倉庫。これは事務用らしい。

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主たる倉庫の内部。木造の小屋組みに鉄骨が要所要所に挿入されている。

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挿入された鉄骨。つなぎの部材は塗装されておらず、荒々しさを見せている。

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2棟の石積みの倉庫。手前が主たる店舗で、奥は事務用らしい。

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かつての農協支所の奥にある石積みの倉庫。これも事務用か。

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石積みの倉庫の側面。要所にバットレス(控え壁)が見られる。

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主たる倉庫の2階部分。パンを主とした軽食が食べられる。

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壁面の飾りの農機具。

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